【22冊】小説家・三浦しをんさんがおすすめした本

舟を編む』『風が強く吹いている』などを執筆した小説家。

小説

『海辺のカフカ』

15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真…。

三浦しをん

小説を読む、という行為に伴うスリリングな高揚感と喜びを、あますことなく堪能できる作品だ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『神聖喜劇』

1942年1月、対馬要塞の重砲兵聯隊に補充兵役入隊兵百余名が到着した。陸軍二等兵・東堂太郎もその中の一人。「世界は真剣に生きるに値しない」と思い定める虚無主義者である。厳寒の屯営内で、内務班長・大前田軍曹らによる過酷な“新兵教育”が始まる。

三浦しをん

分厚い文庫で全五巻もあるのだが、読み終えてしまうのを残念に感じたほど、滅法おもしろくて刺激的な小説だ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『リアルワールド』

高校三年の夏休み、隣家の少年が母親を撲殺して逃走。ホリニンナこと山中十四子は、携帯電話を通して、逃げる少年ミミズとつながる。そしてテラウチ、ユウザン、キラリン、同じ高校にかよう4人の少女たちが、ミミズの逃亡に関わることに。遊び半分ではじまった冒険が、取り返しのつかない結末を迎える。

三浦しをん

激しい怒りと深い悲しみが全編に満ちあふれ、「そうだよ、夏休みっていうのはこういうもんなんだよ。

呑気に家族で海水浴したり、友だちとディズニーランドに行ったりするために、夏休みがあるわけじゃないんだよ!」と、私はうなずくことしきりだった。

この小説を「夏休み中の行動の規範」として、全国の高校生およびその保護者に読んでいただきたい。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『廃用身』

廃用身とは、脳梗塞などの麻痺で動かず回復しない手足をいう。神戸で老人医療にあたる医師漆原は、心身の不自由な患者の画期的療法を思いつく。それは廃用身の切断だった。患者の同意の下、次々に実践する漆原を、やがてマスコミがかぎつけ悪魔の医師として告発していく。

三浦しをん

小説を読むというよりは、一般向けの(「ガンは必ず治る!」みたいな)医学書を読むような感じ。最初は物見高さで手に取ったが、けっこう真剣に介護問題を考える端緒になった。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『虹果て村の秘密』

推理作家になるという夢を持つ12歳の秀介は、同級生の優希と虹果て村で夏休みを過ごす。「夜に虹が出たら人が死ぬ」という村の言い伝え通りに、男性が密室状態の自宅で殺害される。折しも土砂崩れのため犯人と共に村に閉じこめられた二人は知恵を振り絞り謎に挑む。本格ミステリの名手による珠玉の推理。

三浦しをん

作者特有の端正なトリックが仕掛けられているのはもちろんのこと、小学生の男の子と女の子が日常を離れて田舎の村に行く、という導入部からしてチビッコ心をくすぐる。村の様子が丁寧に描写され、空気のにおいまで、伝わってくるようだ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『ダンスがすんだ』

若き外科医は猫に恋する。「この娘、どこの娘?」「美しいこの娘、医師苦痛」恋と革命は現実の壁を越え、物語は始めから終わりまで回文で綴られる。

三浦しをん

洗練された線のかわいらしいイラストともに、全編回文でストーリーが展開する。回文だけでもすごいのに、男と猫との恋愛に革命が絡んでくる、という波乱万丈なお話に、ちゃんとなっているのだ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『永遠の出口』

「私は、〈永遠〉という響きにめっぽう弱い子供だった。」誕生日会をめぐる小さな事件。黒魔女のように恐ろしい担任との闘い。ぐれかかった中学時代。バイト料で買った苺のケーキ。こてんぱんにくだけちった高校での初恋……。どこにでもいる普通の少女、紀子。小学三年から高校三年までの九年間を、七十年代、八十年代のエッセンスをちりばめて描いたベストセラー。

三浦しをん

家族や友だちや恋をした相手との、ささやかだけれど大切な経験を通して、紀子が「永遠」を自分の中でどう位置づけていくのか。

ファンシー消しゴムの香りや、教室の机を濡れぞうきんで拭いた後の匂いなどが鮮明によみがえり、夢中で読んだ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『小鳥たち』

妻の反対を押し切って引っ越した屋根裏部屋から近くの学校の女学生の姿を楽しんでいた画家は、やが小鳥を飼い始めた。それを口実に少女たちを部屋に誘うが、自分のものを見せたい衝動を抑えられない。

三浦しをん

女性の作者が、男性の依頼主に応えて書いた官能小説。そこにひそまされた女性の本音や実感を男性がどう受け取るのか、についても興味が湧く。男女を問わずぜひ一読していただきたい作品だ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『グロテスク』

名門Q女子高に渦巻く女子高生たちの悪意と欺瞞。「ここは嫌らしいほどの階級社会なのよ」悪魔的な美貌を持つニンフォマニアのユリコ、競争心をむき出しにし、孤立する途中入学組の和恵。ユリコの姉である“わたし”は二人を激しく憎み、陥れようとする。圧倒的な筆致で現代女性の生を描き切った、桐野文学の金字塔。

三浦しをん

この小説を読んで、「怖い女の話だなあ。」でも私(僕)は娼婦になったり(娼婦を買ったり)しないし、関係ないや」と思う人もいるかもしれない。

だが私は声を大にして言いたい。「ちゃんと目ぇ開いてよく見ろ!」と。これは現実に多くの人が直面しているにもかかわらず、見ないふりに徹し続けてきた諸々の問題の根源を、鋭く突いた傑作なのだ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『子どもの王様』

団地に住むショウタと親友トモヤ。部屋に籠もって本ばかり読んでいるトモヤの奇妙なつくり話が、ショウタの目の前で現実のものとなる。残酷な“子どもの王様”が現れたのだ。

三浦しをん

少年の想像力によって風景がいきいきと変幻していくさまや、聡明だけれどまだまだ無力な「子ども」が、自分と友だちを守るために奮闘するさまが、空気の匂いまで嗅ぎとれそうなほど描写されていて、ショウタと一緒に団地の冒険を味わえる。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『図書館の神様』

思い描いていた未来をあきらめて赴任した高校で、驚いたことに“私”は文芸部の顧問に! 清く正しくまっすぐな青春を送ってきた“私”には、思いがけないことばかり。不思議な出会いから、傷ついた心を回復していく再生の物語。

三浦しをん

学校図書館の不思議な磁力や神聖性が、とてもうまく描写されている。読書が苦手な人も、きっと共感を持って読める作品だと思う。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『若かった日々』

家族と希薄な関係しか築けなかった父。夫との愛に挫折した母。物心ついたときには離婚していた両親との激しい葛藤や、初めて同性に夢中になった初恋の熱。少女時代を穏やかなまなざしで振り返る、みずみずしい自伝的短編集。

三浦しをん

とてもうつくしい小説を読んだ。レベッカ・ブラウンの短編集、『若かった日々』だ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『虚無への供物』

昭和29年の洞爺丸沈没事故で両親を失った蒼司・紅司兄弟、従弟の藍司らのいる氷沼家に、さらなる不幸が襲う。密室状態の風呂場で紅司が死んだのだ。そして叔父の橙二郎もガスで絶命―殺人、事故?駆け出し歌手・奈々村久生らの推理合戦が始まった。

三浦しをん

いきいきと描写される登場人物、提示される魅力的な謎の数々が、読者を美しくも哀しい作品世界に誘う。未読の方は、この機会にお読みになってみてください。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『水の家族』

死者の視線が、平凡な家族の、ある過去と現在を照らし出す。忘れじ川の水とともに浄化されていく魂の救済を描いた、生と死の壮大な叙事詩。

三浦しをん

語り手の男が、愛した女が川を泳いで渡ってくる気配を感じる冒頭から、私はこの小説のただごとではない力を感じた。

出所:三四郎はそれから門を出た

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エッセイ

『趣味は読書。』

ふだん本を読まない人が読むからベストセラーになる。だからいわゆる「本読み」は、ベストセラーを読まずに批判する。が、それでいいのか?そう思った文芸評論家・斎藤美奈子が果敢に挑む。

三浦しをん

私のようなベストセラー音痴にとって、斎藤美奈子の『趣味は読書。』は、まさに救世主と呼ぶにふさわしい本だ。

ここ数年のベストセラー本を書評し、ユーモアたっぷりに内容と読者層を分析してくれる。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『「膝栗毛」はなぜ愛されたか』

ヤジさんキタさんは江戸っ子ではない?しかも同性愛関係にあった?艶笑と猥歌に満ちた内容から、このような設定が現代日本人の知識から切り離されてしまった「膝栗毛」。20年にわたって書き継がれ、200年にわたって享受された大ヒット作の「笑いの本質」と「文化現象の構造」に肉迫する。

三浦しをん

『膝栗毛』の特色や内容、見せ場をコンパクトにまとめてあり、しかもこれからの『膝栗毛』研究の指標にまで言及していて、なかなかお得な一冊。

「へえ」と改めて思ったのは、(登場人物である)弥次さん喜多さんは同性愛の関係にあったということだ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『新宿二丁目のほがらかな人々』

間は普通に本業をこなし、夜な夜な新宿二丁目に集っては、おネエ言葉で語り合う愛すべきゲイ3人組。男でもなく、女でもない、ゲイだからこそ見えるものがある。ままならない恋愛の問題や職場の人間関係から将来の不安まで、どんなにつらい悩みも彼らにかかればあっという間に雲散霧消。社会の常識とはほんの少しずれた視点から、物事の本質をズバリといいあてる、読後爽快な鼎談エッセイ。

三浦しをん

「クマ系(むくつけき外見のこと)」のゲイ三人が爆裂トークを繰り広げる『新宿二丁目のほがらかな人々』がおもしろかった。

愛し愛されるには、知性と感性と品性が必要なんだな、と目を開かされる。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『物は言いよう』

性や性別についての望ましくない言動を検討するための基準。しかし、意識のありようまではとやかくいうことはない(心の中で「このブス」「このクソババア」と思うのはかまわない。)せめて、おおやけの場ではそれに相応しいマナーを身につけよう、との趣旨で考案された。

三浦しをん

世にあふれるセクハラ発言の、どこがどういけないのか、自分が同じ過ちを犯さないためには、なにに気をつければいいのかを、わかりやすく教えてくれる「実用書」だ。

出所:三四郎はそれから門を出た

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『本当はちがうんだ日記』

自意識が強すぎて身のこなしがぎくしゃくしている。初対面の人に「オーラがない」と言われてしまう。エスプレッソが苦くて飲めない。主食は菓子パン。そんな冴えない自分の「素敵レベル」を上げたいと切望し続けて、はや数十年。みんなが楽々とクリアしている現実を、自分だけが乗り越えられないのは何故なのか。世界への違和感を異様な笑いを交えて描く、めくるめく穂村ワールド。

三浦しをん

この欄をお読みの中高生は、思春期まっただなかで、さぞかし生きにくい日々を送っていることだろう。

しかし、いずれは思春期も終わり、楽しい青春が待ち受けているはず、と希望を抱いてもいると思う。残念ながら、その希望は捨てた方がいい。恐るべきことに、思春期は一生つづくものだからだ。

その、つらくもあり情けなくもある真実が、笑いと鋭さに満ちたエピソードとなって、『本当はちがうんだ日記』に克明に記されている。

出所:三四郎はそれから門を出た

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マンガ

『BANANA FISH』

1985年、ストリートキッズのボス、アッシュはニューヨークのロウアー・イースト・サイドで、胸を射たれて瀕死の男から薬物サンプルを受け取った。男は「バナナフィッシュに会え…」と言い遺して息を引き取る。

三浦しをん

最終巻を授業中にまわし読みしていて、教室がすすり泣きに満ちた、という懐かしい思い出がある。

出所:悶絶スパイラル

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『夕凪の街 桜の国』

昭和30年、灼熱の閃光が放たれた時から10年。ヒロシマを舞台に、一人の女性の小さな魂が大きく揺れる。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか……、原爆とは何だったのか……。漫画アクション掲載時に大反響を呼んだ気鋭、こうの史代が描く渾身の問題作。

三浦しをん

原爆をこういうアプローチで描いた漫画は、これまでなかったと思う。作者の誠実な姿勢と漫画表現の深みと成熟度に、感動せずにはいられない傑作。

出所:悶絶スパイラル

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『ジョジョの奇妙な冒険 第4部』

杜王町に住む高校生、東方仗助。見かけによらず気弱な性格だが、自慢のリーゼントをけなされると途端に豹変、スタンド能力を発現させる。ジョナサンの身内という彼を訪ねた空条承太郎は、そのスタンドを目にし、仗助にそして杜王町に迫る危機を察知するが…!?

三浦しをん

ひとつの町で起こる不思議な出来事。個性的だが等身大(スタンドは持っているけど)の住人たち。

ミニマムな設定の中で、ここまで血湧き肉躍るあたたかい少年漫画を描けるのかと、感動の涙にむせばずにはおれなかった。

出所:三四郎はそれから門を出た

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